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milestone ブログ

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イン ミラーワールド -エピローグ

~最後の戦い~

降り立ったその場所は今までいた雰囲気とは違っていた。
見たことある風景。夕方なのか空が奇麗な赤色だった。私は駅前を歩いていた。この街を歩いていたのは、学生の時。親とケンカした時に駅前にある古本屋によくいたのを覚えている。
朝は8時に地下鉄の駅で待ち合わせをしていたな。いつも間に合わなくて走っていたのを覚えている。私はなんだか『あの』頃を思い出していた。古本屋に入る。そこに本を読み耽っている女の子がいた。高校生なのだろうか。私はその子の顔を見てびっくりした。
あの頃の私がそこにいたからだ。そういえば私はこの時大学受験のため勉強をしていた。
今思えばこの時何かの選択を間違っていたのかも知れない。いや、間違っていなかったのかも知れない。それは解らない。
声がした。

「そんなカッコで恥ずかしくないのか」

後ろからの声でびっくりした。キレイな顔の男性。奇麗な白い肌をした男性。そう、私の知っている男性。当時の私はこの彼が気になっていたんだ。でも、なぜか自分の名前と同じで思い出せなかった。なんで思い出せないんだろう。久しぶりに見るその彼はきれいな顔をしていた。私はかつての自分ともう一人、その彼を見ていた。その時ちょっとした違和感があったのに何も気がつけなかった。外はまだ夕焼けのまま赤い空。夕日に映える二人が奇麗に見えた。私は何故か気になって過去の自分とその彼の後をつけていった。

「どいて、どいて」

後ろから自転車が走ってきた。急だったから、私はよけそびれていた。ぶつかる。そう思って目を閉じた。けれど衝撃はなく、ブレーキの音がけたたましく聞こえた。変な感じが体を突き抜けた。そう、自転車は私の体をすり抜けて走っていったんだ。目の前にいる二人に自転車はぶつかりかけていた。あのかっこいいキレイな彼が当時の私の肩を引き寄せて庇ってくれていた。当時の私の頬は少し赤くなっていた。自転車の人が体勢を崩してこけていた。私は手を差し出したが、やはりつかめずに通り抜けていく。
その時気がついたのだ。
当時の私の肌が褐色なのを。当時の私が、私を見てこう言って来た。

「かわいそうな『アリス』この私、黒いアリスがあなたが出来なかったことをしてあげるわよ」

そういやらしくニヤリと笑われた。
イヤだ。
この思い出だけは汚されたくない。私は気がついたら叫んでいた。そして身の回りに風が吹き荒れ、まるで赤の女王の剣戟みたいに周りに広がっていった。触れなかったはずのこの世界なのに、この風の渦が、赤い、そう赤い剣戟が周りを切り刻んで壊してく。店の屋根や壁、道路すらも、切り刻まれていく。本当ならすごい音がするはずなのに、私の耳にはカノンがずっとなり続いていた。思い出の曲、思い出の場所、思い出の人。私はもう自分が止められなくなっていた。剣戟が止まらない。まるでこの風が指揮棒のようにカノンを導いているみたいだ。
その時、私の中から光が飛び出してきた。
茶色の髪にはティアラをつけていた。手には丸く鏡のような盾を持って、もう一つの手には剣の柄だけを持っている。胸だけを覆う鎧をつけていた。
黒いアリスの色違い。私はそう思った。顔も私そっくりだ。黒いアリスとは正反対。
まるで白いアリスだ。私はふと自分をみて思った。
赤く怒りにそまった私は赤いアリスだなって思った。
白いアリスがいう。

「抑えきれない思いなのね。赤の女王のわなに嵌ってしまって」

そう言って白いアリスが私に触れた。少しだけ私は落ち着けた気がした。
私はその白いアリスに聞いた。

「あなたは誰なの?私なの?」

私は解らなかった。私がいっぱい出てくる。私は私なのだろうか。私の意思はどこにいったのだろうかって。
白いアリスが話して来た。

「私はアリスの中のアリスよ。あなたはかつて私であって、私はかつてあなたでもあった。
ワンダーランドでの出来事は、想いをあなたは忘れてしまったのね。でも、思い全てを持っていけるわけじゃない。この赤の世界での思い出はあなたにとってもう一部であり、全部であるのね。大事な思い出は置いて行っちゃいけない。大事にしまって持っていかなきゃね。
ただ、思い出の中では人は生きてはいけない。あなたも気がついているでしょう。私の中の『アリス』」

そう言って白いアリス、アリスの中のアリスは私を力いっぱい抱きしめてくれた。
安らいでいく。私は自分の色が赤から黒にそして、いつもの色に戻っていくのがわかった。
私は空を見て思った。

「黒いアリスなんていなかったのね。黒いアリスは私自身だった。そして、白いアリスも。
ありがとう。思い出を。大丈夫。立ち止まったりしないよ。私は前に進むね」

私はそう言って手に持っていた柄だけの剣に力を込めた。
左手にある盾で世界を写す。そこには薄い膜に覆われた、奥にチェス盤が写っている世界があった。
私はどこかの記憶でこの戦い方を知っている。そして、一人でなかったことも。
私は右手に力を込めて光を集め、切り裂いた。この赤の世界を。ひっそりと言葉に出して。

「忘れないから。全てをもう」

光に包まれた後、私はチェス盤の上に立っていた。私は声に出した。

「みんな、お待たせ」

グリードもライも白の女王も、そして今までの世界で出会ったキュア、イズミール、リーエル、チャーミー、ウーシャ、ノコキも傷だらけだった。
マオが言う。

「待たせすぎだぞ。おい。でもありがとう。戻ってきてくれて」

マオが照れながらそう言ってくれた。
目の前にはフィーネ、アレグロ、そして赤の女王。奥に赤のキングがいる。
アレグロが強く風をぶつけてきた。私は胸に手を当ててこういった。

「風よ抑えて」

アレグロの風は一瞬でおさまった。ライが地面から大量の木を出してアレグロを突き刺そうとした。フィーネがその木を一瞬で燃やす。
私は前に進んだ。赤の女王に向かって。赤の女王から赤い剣戟が大量に放たれた。
前までの私なら怖くて足がすくんだかも知れない。でも、今の私は怖くなかった。一人じゃない。それに剣戟も見えている。
無数にあると思っていた剣戟は残像。そして、赤の女王は槍で攻撃をしていたのだ。そう伸縮自在の槍で。目に見える攻撃が全てじゃない。
私は幻には目もくれず赤の女王に向かって歩いていった。
アレグロが私に風をぶつけてくる。けれど私の周りはすでに風で守られている。フィーネの炎も同じだ。私に当たる前に風で防がれている。私は赤の女王めがけて突進した。
赤の女王は私ではなく、白の女王に向けて槍を構えた。防がなきゃ。守らないと白の女王を。
私は盾をやりに投げつけた。その時、赤の女王の後ろから剣が飛んできた。
赤のキングだ。風を吹きつけたが剣は止まらなかった。
直撃する。
その時風が吹いた。私の前に。
目の前にはマオがいた。私の方を向いている。胸からはキングが投げた剣先が見えているのがわかった。
徐々にマオの胸が赤く染まっていき、マオの体が透明になりかけている。
マオが優しく言う。

「どじだな、俺も。ふいに出たら剣があたるなんてな。アリスも気をつけろよ」

マオの優しい笑顔なんて見たくない。私はマオを抱きしめた。消えないように力いっぱい。
出来るだけ強く、そう強く。

~キングの庭園~

力いっぱい抱きしめていたはずなのに、徐々にマオの感触があやふやになっていく。
その時白の女王が叫んだ。

「マオが消える前に倒して、赤の女王と赤のキングを」

私はその言葉に頷いた。マオを失いたくない。その思いが強かった。心のどこかで光が輝く。声がした。

「怒りに身を奪われないで」

白いアリスが私に話してくれた。そうだよね。怒りに身を任して勝ったとしてもマオが笑ってくれると思えない。それに私は心を奪われたから解る。赤の女王も心を奪われているんだ。私はそのことが解った。剣に力を入れる。光が集まってくる。私は剣を振り下ろした。赤の女王がやりで受け止める。色んな思いがぶつかっているのがわかる。

「大丈夫、受け止めるから」

私はそう言った。私の手をラキシスが、ライが支えてくれる。そして、他の人も。綺麗な赤いドレスを着た女性、黒い鎧に身を包んだナイト、黒いフードを被った骸骨の仮面をした人、猫耳をつけた可愛い顔をした男性が一人だけいた。私の記憶ではもう一人いたようにも感じた。でも、一人だけだった。大きな力が私を包んでくれる。光はチェス盤全てを包み込んで言った。光が引き、赤の女王が倒れているのがわかる。私は走って赤のキングの所に行った。言うセリフはもう解っている。私は大きな声で叫んだ。

「チェックメイトよ!!」

その瞬間世界にひびが入った。ひび割れて出てきたのは桜並木だった。ただ、違うのは花が淡い青色なだけだった。幻想的な風景。でもどこか懐かしさを感じていた。私はマオを見た。マオの体は透明で消えかかっていたけれど、徐々に戻っていった。私はマオに向かって走りだした。強く抱きしめた。ちゃんと感触がある。

「良かった」

私は声に出せた。その時、赤のキングが近くにやってきた。キングは言う。

「待っていたよ。僕らの『アリス』この世界に戻ってくるのをね。そして、この世界を終わらせるための『アリス』を」

私は意味が解らなかった。赤のキングが言う。

「知りたいのなら付いてくるがいい。このワンダーランドで何がおきていたかということを」

私はマオを見つめていた。まだ辛そうなのには変わらない。白の女王が近づいてきてこう話した。

「大丈夫、マオは私が見ておきますから。だから僕らの『アリス』はしたいことをするといいのですよ」

私は白の女王のセリフにコクリと頷いた。赤のキングを追いかけた先にはお茶会をしていたのだろうか、大きな白いテーブルとイスが並べられていた。けれど、机の上は食器が散乱していた。まるで、お茶会の最中に何かがあってそのままになったような風景だった。赤のキングが言う。

「かつて、この場所にいつもと順序が違って、いつもと違う未来を導いた『アリス』がいたんだ。終わらないはずのお茶会、終わらないはずの物語をその『アリス』は終わらしたのだった。だが、壊れ行くワンダーランドの中で『アリス』が元の世界に戻るには誰かがこの壊れ行くワンダーランドを支えねばならんかった」

赤のキング言う。目の前に大きな樹がある。その幹に一人の男性が捕らわれていた。私はその顔をみてビックリした。ハオだったからだ。私は樹に近寄った。

「ハオ様、どうしてここに?」

赤のキングが言う。

「ふぉふぉふぉ、その者をハオというか。『アリス』は。確かに間違いではないかも知れなんな。そのものはかつての『アリス』を送り出すため、この壊れ行くワンダーランドを支えたんだ。身をもってな。いつかもう一度『アリス』がこの世界を変えてくれるその日までな。思いは最後の『アリス』とキングとの戦いであったチェスを受け継いだのじゃ。だが、この者、そうハオというのであれば、ハオの一人の力じゃどうにも出来ない。だからわしは案内人であるシロウサギの力をハオにわけあたえたのじゃよ。そして、ようやく『アリス』が来てくれた。記憶は失っておったがな」

私はなんだか悲しい気持ちになった。私のせいでハオは捕らわれていたのだろうか。

「それは違う」

どこからか声がした。振り向くとそこにマオがいた。マオが言う。

「ハオは、自ら望んで『アリス』を送り出したんだ。そして、俺も自ら望んでこのワンダーランドに残ったんだ。『アリス』が来るまでな。『アリス』が来て、赤のキングを打ち破るのを待っていたんだ。ずっと」

私はそっとハオに触れた。ハオはまるで木のようにつめたくなっていた。私は赤のキングに聞いた。

「ハオ様は元に戻るの?」

だが、誰も答えてくれなかった。それが答えだと私はわかった。赤のキングが言う。

「ワンダーランドは壊れて、作られる定め。ワンダーランドの一部となったハオは散り散りになっていく。その全てを集めればハオに戻れるかも知れない。ただ、それはあくまで可能性にしかすぎん。どれだけ時間がかかるのか、どれだけ苦難がまっているのか、それすらも誰にもわからん。今までは終わらないワンダーランドであったのだからな」

私は涙しそうになった。その時樹の中にいるハオが話し出した。

「僕らの『アリス』また会えたね。私は大丈夫です。たとえ散り散りになったとしても、私という、いえ、『ハオ』という記憶をどこかに持っていてくれればいいですから。私にはそれだけで十分です」

ハオがそう話した。赤のキングが遠くを見ながら言った。

「このワンダーランドを出て記憶を持ち続けるのは至難の業じゃ。どれだけ強く願っていてもその先は誰にもわからん。だが、諦めてしまっては道は塞がってしまう。どうするのじゃ、アリスは」

そう赤のキングが言った瞬間に地面から鏡が出てきた。それも何枚も、姿見の鏡が出てきた。

「時間がない。することは一つだ」

私はその声を聞いて振り向いた。
そこにいたのはラキシスだった。

「どうして?」

ラキシスが言う。

「チェスで駒を取られただけだ。チェスが終われば開放される。死んだわけではないからな」

横にライがいた。ライが言う。

「そういうことなんだよ。嬢ちゃん。びっくりさせてごめんね」

世界が揺らぎ始めている。私は深呼吸をした。
ハオに向かってこう言った。

「私、行くね。絶対忘れないから」

その時、手を引っ張られた。マオだった。マオが言う。

「『アリス』お前、俺を忘れるんじゃねえぞ」

私はマオに言う。

「さあね、忘れるかも知れないよ、マオのこと」

その時マオに抱きしめられた。一瞬のことでビックリした。マオが言う。

「一回しか言わないから、ちゃんと聞けよ。『アリス』、お前のことが好きだ。だから絶対忘れるな。いや、忘れさせない」

そう言ってマオは私にキスをしてきた。柔らかかった。気が付いたら私は手をマオに伸ばしていた。
けれど、徐々にマオが遠くなっていく。ああ、鏡が私の後ろに迫っていたんだね。
遠くに見える世界は徐々に崩れ始めていた。まるでガラス細工が壊れていくかのように、ゆっくりと。私はその景色を見ながら深く落ちていった。そう、深く。

~エピローグ~

気が付くと机の上で眠っていた。
そうだ、祖父の書斎で眠ってしまっていたんだ。なんだか長い夢を見ていた。でも、なんだか何かをしなきゃいけないって思いがずっとある。
そう、何かを夢で教えてもらったんだ。夢は見るものじゃなくかなえるものって。
なんだかどこかにぽっかり穴があいたみたい。
私は立ち上がって鏡を見た。
その時、鏡に誰かが映っていた気がした。
振り返ると誰もいない。
そうだよね。見えたきがしたのはウサギ耳をつけてかわいいカッコをした金髪の人だった。
けれど、もう一度鏡を見たときにまた見えた気がした。一瞬だけだけれど。
コトン
何かが落ちた。手に取ると銀の懐中時計だった。そうだいつからか私の手元にあったものだ。そしてもう一つ。小さなナイフが合った。
刀身には
「過ごした月日は忘れない」
と書かれていた。
刀身ごしにもなぜかさっきと同じウサギ耳の人が見えた気がした。どうしてかその時唇に手が行った。口から言葉が自然と出た。

「マオ、会いたいよ」

そうだ。私は約束をしたんだ。忘れないって。マオをハオを。
この世界のどこかにいるんだもの。私は祖母に言ってすぐに出かけた。
戻らなきゃ。だって

「願わなきゃ、何も始まらない。動かなきゃ、何も始まらないんだもの」

私はそっと空に向かって言う言葉を決めていた。

「みんな、お待たせ!!」

ってね。

「おせぇよ、バカ」

私は声がした方を振り向いて、走って行った。


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